講座
精神衞生発展の方向
宗像 文彦
1,2
1厚生省公衆衞生局
2精神衞生課
pp.15-22
発行日 1957年12月15日
Published Date 1957/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910493
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1.ピネルの“解放”
1792年,フランスの精神科医ピネルが勤務先のビセートル精神病院で,鉄鎖や手枷足枷で縛りつけられていた収容患者を,その鎖や枷から解放し,自由を与えてやつた時,新しい近代的な精神病者取扱方法が始つたといえましよう。何しろそれ迄の精神病院では.収容された患者は犯罪者にも等しい取扱いを受けており,精神病患者の示す異常な言動や反社会的な行為は悪魔の仕業とか神罰の現われであるとしか考えられていなかつたのですから,迫害され虐められ,或は悪魔を追出すために食物を与えられず,或は火あぶりにされたり,実にさまざまな非人道的な取扱いが行われていたのです。また,精神医学の発達も遅れていましたので,精神病院を治す方法もなく,精神病院は専ら患者を隔離収容することを目的としていた訳です。
ピネルのこの“解放”の結果はどうだつたでしようか。繋いであつた悪魔どもが大混乱を惹き起すことを怖れた反対者達の予想を裏切つて,特に好ましくない事件は起りませんでしたし,却つて患者の呻き声や叫び声は消えて,代りに感謝と喜びの声が起り,病状さえ一挙に好転した感を与えました。
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