教養講座 小説の話・14
佐藤春夫の「田園の憂鬱」
原 誠
pp.38-41
発行日 1957年9月15日
Published Date 1957/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910423
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石原慎太郎が,「太陽の季節」で芥川賞をもらうにあたつて,最後までそれに強硬に,反対したのは,佐藤春夫でした。佐藤春夫は,芥川賞の銓衡委員の一人として,次のようにいつています。「僕は『太陽の季節』の反倫理的なのは必ずしも排撃はしないが,かういう風俗小説一般を文芸として最も低級なものと見てゐる上,この作者の鋭敏げな時代感覚もジヤナリストや興行者の域を出ず,決して文学者のものではないと思つたし,またこの作品から作者の美的節度の欠如を見て最も嫌悪を禁じ得なかつた。これでもかこれでもかと厚かましく押しつけ説き立てる作者の態度を卑しいと思つたものである。さうして僕は芸術にあつては巧拙よりも作品の品格の高下を重大視してゐる」
この一言で佐藤春夫が,文学——もつとひく芸術一般—をどのように考えているかが,よく判ると思います。「太陽の季節」をボロクソにやつつけるなんて,ずいぶん頑固で,古くさいオヤジだという人がいるかもしれません。
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