2頁の知識
遺伝学最近の進歩
高橋 英次
1
1東北大学
pp.26-27
発行日 1956年12月15日
Published Date 1956/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910250
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戦後公衆衛生の急激な進歩並びに多くの新しい有効薬の発見によつて,結核や腸チフス等による死亡が著しく減少し,その他の伝染病も次第にその影を潜めつつある。これに代つて高血圧や癌などが死因の主要な位置を占めるようになりつつあるが,一方において治療の困難なものに多くの遺伝性疾患がある。これらの遺伝性疾患の発現を未然に防ぐには遺伝という現象を究めなければならない。人類遺伝学の開拓には著しい困難がある。が今後の発達に俟つべき点が少くない。
近代的な遺伝学は御承知の如く1900年にメンデルの法則が再発見された時に始まる。遺伝学はその後急激な進歩発達を示し,植物や動物について多くの収穫が挙げられて来た。遺伝という現象は結局生殖細胞の核の中の染色体に由来するものであるが,個々の形質の遺伝を支配する単位として染色体の中に秩序正しく排列される遺伝子が認められるようになつた。遺伝子は割合に変化しない性質のもので,細胞分裂の際細胞から細胞へ親から子へ伝えられるものであるが,その間にその性質の変化しないことが特徴である。生物体に現われる凡ゆる形態的又は生理的性質は夫々一定の遺伝子が関係をもつている。遺伝子による形質発現のしかたは環境によつても或程度の影響を受けるが,遺伝子そのものはかなり安定性の強いものである。この安定性から見ると遺伝子は或種の有機化合物の1分子或は数分子の集合体であると見られる。
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