扉
ふるさとに生きる
pp.5
発行日 1956年12月15日
Published Date 1956/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910245
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「私は今春大学を卒業した。今年も秋になつて就職試験期を迎え,昨年のその頃を思い出す。母や,死んだ父に代つて学費を送つてくれた兄の便りに励まされ,また,其の期待に応えようと,私は毎日就職戦線に奔走した。しかしそれは私の卒業試験にのぞむ意気と力を衰退せしめたのみであつた。私は,そうまでしてサラリーマンになり,東京に住むことに執着しなかつた。いま私は,家業を手伝い乍ら,毎日を送つている。
先日,新聞の片隅に出ていた或る社員募集広告をみて,私はその採用試験に一緒にゆこうと同窓の友達を誘つた。併し私は,旅館である彼の家で長くまたされた。中の様子から,彼が旅館の主人らしく立働いているのに気付き,私は女中に大事な用件で来たのではない旨を伝言してそこを去つた。
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