特集 戦後十年最近の医学と看護はどう変つたか?
精神病の看護
塩田 とし子
pp.79-83
発行日 1955年10月15日
Published Date 1955/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909937
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精神病看護の在り方は,日進月歩の精神医学と社会生活の好転と共に大きな変化をもたらした。精神科看護に長年携つて来た者が過去をふり返つて見た時,戦争中及び終戦直後の病者の哀れな生活が先ず頭に浮ぶ。社会の片隅に押しやられ,人間と見られなかつた病者達が受けた被害は,当時の社会人より数倍慘めなものであつた。終戦後10年,恵まれた衣食住の下に生活する病者達を見るとき感慨無量のものがある。
看護の在り方の大きな変化について記して見ると,昔の看護は名のみであつて,病者が病院から脱け出さないように,危険な事態を起さないようにと,事故防止のみに専念していたのである。従つて病者の大部分は開放的な療養生活は望めなかつた。せいぜい病棟の中庭で日光浴をするのが,運動でありレクリヱーシヨンでもあつた。このように拘束された毎日の生活に,病者にとつて精神的にも肉体的にも苦痛であるのは当然のことである。この拘束から逃れるために脱院を計つたり,その息苦しさから兇暴になつたりする。集団脱院が度々あつたのもこの時代である。昔の病者は一般に兇暴であつたが,これは病気そのものよりも扱い方が悪かつた為であつて,真の看護をしていなかつたのである。鍵のかゝつた部屋に長期間入れられた場合を想像して見よう,正常な人でもどのような精神状態になるであろうか。
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