扉
客観的なみかた
pp.5
発行日 1955年1月15日
Published Date 1955/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909721
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先日夜きいたラジオに,次の様なのがありました。それは「新聞をよんで」という題の古い新聞記者D氏の話であつて.考えさせられる点があつたので御紹介してみようと思います。話は,私共も新聞をよんで承知した一つの事件,後楽園の世界動物博覧会が,地方巡業に出かけるため動物達ををりに入れて貨車につみこむ途中に,其の中のライオンの子供の二匹が夫々おりをぬけ出し,早朝の散歩としやれこんでいるうち,一匹は国電の貨車にふれて即死し,他の一匹は再び生捕りされた事件でした。D氏はこの一つの事件について報導された東京都内各新聞の情報の相違を指適されています。まず,ライオンを発見した時間に前後1時間以上の誤差のあること発見した人が,最初に発見した人というのにそれが二人の異つた人であつたこと,ライオンの死んだ時間が,或新聞によると,発見される前であつたりしていること,生捕られたライオンのために,くり出された警官隊の数や,種類のちがい,等々,実に一つ一つの事実について夫々違つていることについて氏はこれは,事件のクネをとるために質問する新聞記者に答える人々が,自分達の思い思いの主観で話をすることや,半ば味をもつて事実を膨ちようして話したりするところへもつて来て,まちまちの話をきいた記者は自分流に客観的に書きつづるからだといつています。
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