灯影 ブックレビュー・1
(1)カーヴイルの奇蹟,他—ペテイ・マーテイン著・尾高京子譯
石垣 純二
pp.51-53
発行日 1952年1月15日
Published Date 1952/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909354
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リーダイ誌の昨年の4月號で,そのダィジエストをお読みになつた方は,なお梗概を御記憶になつておられるでしよう十九歳のベテイという可憐な少女が,樂しいクリスマスの賑いの夜に,はじめてライという恐ろしい宣告を聞いて,茫然とするところから,この話は初まつています。そして二十年後,新しい化學療法で,全治退院を許可され,療養所の門を幸福と感謝に滿ちみちつつ,同じ喜びの夫と手をとりあつて出て行くところで終るのです。これは眞實の記録であつて,一點の虚僞も誇張もないことが読む渚にしみじみ判るのです。生涯はじめて,こうした筆をとつた人にしては,實にのびのびとした筆で描寫も緻密だし,性格もよく浮き出ているし,情感も溢れていてつくづく感心させられます。ことに,リーダイ誌にはカツトされていたようですが,ベテイたちが,精力的で實行力のある,りつぱな指導者を得て,療養所内外の不當な偏見や制約とたたかつて,一歩一歩,療養所をより住みよく明るい場所へかえて行く組織活動は,著者も一番力をこめて描いていますし,實に見事だと思うのです。ここのところは,いろんな意味でおくれている日本の醫療組織で働いている者には,大へん教訓に富んでいますし,最も感動的な部分になつています。
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