発行日 1952年12月15日
Published Date 1952/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907199
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〝かゆいところに手のとゞく〟という表現がありますが,これはしてほしいことを又してほしいと希つていることを,口に出して頼まない中に,先方が氣がついてそれをやつてくれることを,ゆきとゞいた取扱い,細く心のくばられた思いやりの深い態度のことであります。試みに,自分の脊中のかゆい一點を,誰かにたのんでかいてもらつてごらんなさい。もう少し右……一寸下……もつと上……えゝもう少し……といつた具合で,そのもどかしさといつたらありません。“孫の手”という竹細工の,くま手の小さいのみたいな奇妙なものがありますが,これは,自分の思う存分,どこでも手を伸ばしてかゆいところを滿足させる道具です。併しこれは健康人が自分で自分を滿足させる方法ですが,病人は自分でそれが出來ない。從つて他人の助けを求めることになります。その他人,即ちナースが一つ一つ病入の注文をうけなくては充分に滿足させられないとしたら,ものも言えない重態の人,或はものをいうことを禁じられている患者の場合はどうなるでしよう。ゆきとどいた看護は凡そほど遠くなります。これでは看護にすらなりません。
いわないことも,何がしてほしいのか,何をねがつているのかちやんと推測して,孫の手の如く,ビタツと目的を達してあげることがよい看護のヒケツでしよう。
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