名詩鑑賞
假繃帶所にて—峠 三吉
長谷川 泉
pp.48-49
発行日 1952年9月15日
Published Date 1952/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907139
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昭和20年8月6日,廣島に投ぜられた一發の原子爆彈がどんなに悲慘な結果をもたらしたか,それらは當時の模樣をリアリステイツクな筆致で描いた詩や,小説,手記,繪畫などに歴史的な傷痕を止めている。ここにかかげた挿畫は,丸木位里,赤松俊子夫妻によつて畫かれた「原爆の圖」5部作の中の「少年少女」の中の一部分である。26萬の死者,數十萬の被害者を出した悲慘な原爆にたたきのめされた人間群像を描いたこの「原爆の圖」は,戰後日本の畫家によつて描かれた最大の繪であり,昭和25年3月から26年12月までに全國51ヵ所に及ぶ展覧會において65萬の入場者を吸收したものである。
死の廣島を描いた大田洋子や原民喜,阿川弘之や廣中俊雄の作品の中から,自殺した原爆作家原民喜の「夏の花」の一節を抜いてみよう。—「見ればすぐそこの川の中には,裸體の少年がすつぽり頭まで水に漬つて死んでゐたが,その屍體と半間も隔たらない石段のところに,二人の女が蹲つてゐた。その顔は約一倍半も膨脹し,醜く歪み,焦げた亂髪が女であるしるしを殘している。これは一目見て憐愍よりもまづ,身の毛のよだつ姿であつた。」満目このような醒慘な光景に眞向からいどんだ峠三吉の「假繃帶所にて」は「原爆詩集」の中でも,その迫眞性とたたみかける激しい氣息においてすぐれた詩である。
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