発行日 1950年10月15日
Published Date 1950/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906724
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病人はフーツと力強い吐息を一つ吐いて,舌先で唇を嘗めまはした。もう安心だ。間崎は,自分も何か慰めの言葉を云はうと思つたが,どんなやさしいことを云つても,今の場合自分の聲ではあまり太過ぎるやうな氣がして,呼吸をつめて物音をたてないやうに努めるばかりだつた。
「貴女胸苦しいでせう。ここあけて風をいれませうね……」山形先生は頭の上からのしかぶさつて,辻ヨシヱの上衣の胸ボタンをとり外づし,グイグイ手荒く白い胸を露出させた。乳房のふくらみの一部がみえた。すると,ベツドに投げ出されて居た病人の腕がもの憂げに動いて胸の露出面をせばめるはたらきをした。間崎は立ちあがつた。このまま止まつて居るのも決して惡いことではないが,出て行くのが自分としては自然な感情だ。
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