ルポルタージュ
東大厚生女學部
竹村 幸子
1
1保健タイムス
pp.18-21
発行日 1950年2月15日
Published Date 1950/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906607
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青春に悔なきや
午前8時,登校の鐘と共に,寄宿舎の薄暗い廊下から,浮ぶように出てくる生徒たちは,三々伍々,何れもみないそぎ足に病院へと立ち去つてゆく。登校の彼女たちに,投げかけられる温い見送りの言葉さえなく,あたりの冷々とした空氣に丸くこごめられたその後姿は,思いなしか淋しそうだ。はち切れるような若さを,白い實習着につつみ,青春を謳歌したい娘盛りを,勉學にいそしむ彼女たちが1人前の看護婦としてこの學窓を巣立つ日を夢見つゝ送る3年間の寄宿舎生活は,毎日このようにして始るのである。
看護婦としての知識を注ぎ込まれる週24時間の講義は,30時限の單位に分けられているが,そのうち國語・英語・社會等の教養學課を除けば,殆どが醫者からうける醫學部門の講義ばかり。終戰と共に海を渡つてきた新しい息吹によつて,醫者の協力者としての新しい看護婦の在り方が示され,わが國の看護界にも一大改革がもたらされ,教育の制度が高められ,地位の向上が叫ばれているとしても,それは彼女たちにとつて,遠い國の夢物語にしか過ぎない。それでも今年の2月から,看護婦のS先生の實習の時間が新たに加えられた。「ナースの教育はナースの手で」という時代の力に抗し切れず,やつと設けられた週たつた1時間ではあるが,生徒たちにとつては嬉しい時間である。
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