看護婦教育論

　看護婦と醫師との關係に就て何か書けと頼まれたが中々筆がとれない．そこで看護婦の教育に就てとりとめもなく書いて見ることゝする。自分は大正11年に岡山醫科大學の附屬看護婦養成所で初めて生理學の講義をした時，心をうつたものは看護婦の教育が總ての教育からとりのこされて，尚徒弟教育である事であつた。それ以來看護婦教育制度の向上に關心を持つ樣になつた。それからロックフエラー財團のフェローとして英米に學んだ時，彼地の看護婦教育を視察するにつけ，一層日本の現状は其原因が看護婦の事が看護婦によつてなされていない事に原因して居ると思ふ樣になつた。今日本はアメリカ軍の管理下におかれるに至つて，今迄先覺者が公娼廢止，男女同權，婦人參政權等其他地位の向上を叫んでもどうにもならなかつたものが，アメリカ女性の社會的地位がものを言つて，たちまちのうちに形の上では一應實現した。又一方昭和21年の春からオルト少佐司會の許に，看護婦教育制度協議會が開催されて，本年1月3日厚生省から保健婦助産婦看護婦令が公布されるに至つた。即ち6,3,3の上に3年の專門教育の後，國家試驗を經て資格を得られる甲種看護婦と6,3の上に2ケ年の專門教育を經る乙種看護婦，即ち從來の看護婦の2種類となつた。これで看護婦教育制度も形の上では整備され，殊に從來最も徒弟的であつた開業醫の見習看護婦制度の消失した事は，看護婦の向上の上から喜ばしい事である。