特集 人とのかかわりを職業とする意味
看護においてなぜ自分を知ることが重要なのか
広瀬 寛子
1
1東京都精神医学総合研究所医療看護研究部門
pp.323-329
発行日 1997年4月1日
Published Date 1997/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905314
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自分を見つめることで患者か見えてくる
筆者が看護カウンセリング*を始めた当初の頃であった.透析患者のAは医療者に対して攻撃的な行動化を頻繁に起こし,次々と転院を繰り返していた20代の女性だった.Aは家族に恵まれず,経済的にも非常に貧しく,底辺ともいえる生活をしていた.家族からも医療スタッフからも見放されている患者であった.そんなAとの面接が始まった.これまで誰一人自分をわかってくれる人がいなかったAは,筆者の来訪を感謝し,筆者を信頼し,頼りにするようになった.筆者もAの力になりたいと強く思っていた.そのような思いは二者関係への埋没へとエスカレートしていった.筆者は面接当初からAにおびえ,拒否される恐れをどこかで持っていた.そんな中でAは筆者が自分の思うままになることが当然だと思うようになり,それが受け入れられないと,人が変わったように激しい敵意や攻撃性をあらわにしてくるようになった.筆者は「こんなはずではなかった」と思いながら,Aへの否定的感情が生じる中で,これまでさんざん他者から見捨てられる体験をしてきたAに再び同じ体験をさせるわけにはいかないと,Aの攻撃に直面しようとした.しかし,最終的にはAから面接を拒否され,面接は中断した.筆者は自分の未熟さと無力さを責め続けた.そんな時期を経て,筆者自身の辛さを受け止めることができたとき,改めて筆者の中の「見捨てられ不安」に気づいた.
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