連載 白い恋人たちへの応援歌[私の病院探訪記]・10
社会復帰を祈る心のケア—北里大学東病院精神神経疾患治療センター
向井 承子
pp.940-943
発行日 1992年10月1日
Published Date 1992/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661904163
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縁あって,いくつかの精神病院を取材した時期があった.1980年前後だったと思う.当時,時代はようやく精神病者の人権を問うようになってきて,マスコミにもその論調が登場していたけれども,現実の精神病院の内側には眼を覆わんばかりの惨憺たる人権侵害が充ちていた.すべて病者は等しく人間として扱われるはずなのに,精神を病んでいるというだけで強いられる非道が大手をふる光景であった.
だが,初めて目の当たりにする患者さんの中には,思わず身の毛のよだつような恐怖や違和感を覚えさせられる人も確かにいた。その現実は,幼いロマンや単純な正義感などを簡単にうち崩すほどで,自分をその患者の家族や近隣に置き換えてみれば,共にくらすなどとても言い切れはしまい,と思わせるほどだった.
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