連載 考える
続・家族の肖像・6
「みー」と「たっちゃん」
柳原 清子
1
1日本赤十字武蔵野短期大学
pp.564-569
発行日 2000年6月1日
Published Date 2000/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661903491
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夕暮れ時,西に向かう新幹線は,ビジネスマンの姿がやけに目立った.最初は,新聞や書類らしきものを見ていた人々も,1日の疲れなのだろうか,やがてうとうと眠り始め,ヒューンという新幹線独特の音と,時折ワゴン車を押す,売り子さんの声が響く世界となっていた.私もまた睡魔と出会いつつ,明朝会う原田さんのことを思っていた.私が知っているのは,夫と死別した26歳の女性ということだけである.そして「夜も働いているんです.子供は実家にあずけたままです…」という電話での言葉だった.少し低めのハスキーボイスのせいか,生活の疲れが垣間見えた感じがしていた.
翌朝,ホテルのロビーでぼんやり腰掛けていた私に,「あの〜」と声をかけてくれた人は,少し照れたような困惑した表情ながら,笑うと人なつっこい感じがするスラリとした女性だった.急に親しみがわいてきて,「原田さん,美人なんだけど,ご主人もすてきな人だった?」と思わず聞いてしまった.「うん、すごーく!」とうれしそうな答えが返ってきた.「あっそうだ,写真もって来たんです」ってカバンをごそごそ.タキシード姿のキリッとした感じのおしゃれな男性が1枚出てきた.そしてもう1枚の‘写真立て’に入ったものは,親子4人で病室で撮ったものだった.「亡くなる10日ほど前の写真なんです」とのこと.ベッドの上で,両親に抱かれるようにいる2人の男の子(6歳と5歳)は,わんぱく坊やの感じである.
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