古典のページ
「古典のページ」発足にあたつて
萬年 甫
pp.420-421
発行日 1965年7月25日
Published Date 1965/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904193
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本号より「古典のページ」をもうけることになつた。基礎臨床を問わず,神経科学の進歩に大きな貢献をした人々の原著を逐語訳によつて紹介してゆこうという試みである。まだ学問としての体系のととのわなかつた時代に,わずかの手がかりをたよりにひとり目覚めて,ひたすら現象に立ち向つた先駆者たちの努力の積み重ねが今日のわれわれの知識の基礎になつていることは誰でも気づいてはいるが,さてその人々が実際にどういう動機,どんな方法,どういう思考過程で歩みをすすめたかを原典にあたつて調べてみる機会というものは余程心がけない限りなかなかめぐつてこない。他書からの引用でその概略を知るだけで満足して終るのが普通である。誰でもが多忙を口にする現在それもやむを得ないかもしれない。しかし,われわれはそれによつて最も大事なものを学び落しているおそれがないではない。私が学生時代故木下杢太郎氏(東大皮膚科太田正雄教授のこと)から直接うかがつて忘れられないのは,「われわれは知識(Wissen)と知恵(Weissheit)を区別して考えなければならない。知識は人間が知的活動をつづけさえすれば無限に増えてゆく。しかし知恵はそうはいかない。これを学ぼうと思つたら古典に親しむことだ。云々……」という言葉である。その先生のさされた古典とはギリシャ哲学とか論語とかであつた。
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