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看護の意味と価値を紡ぎ出す臨床看護師の語り
臨床ナースへの暖かいまなざし
2002年4月頃,佐藤紀子先生の研究室に伺ったことがある.そのときからすでに佐藤先生は,熟練した看護師たちが実際に臨床で展開している豊かな語りから看護の知のかたちを探っていきたいと,熱い思いを持っておられた1).あれから5年を経て,本書は著者の長年の研究成果をもとに,臨床実践の中で,いかにして患者との関係性をつくり,状況全体をとらえ,支えていくかという看護師の「関わり」の知に焦点をあてて描かれたものである.本書の副題には「看護職生涯発達学の視点から」とあり,著者は「基礎教育を含めて看護師が生涯にわたり発達し続けることを支援する学問」と位置づけている.20代前半に看護師という職業を選択した一人ひとりが,その後,生涯にわたって,看護師であることをどのように引き受け,何をよりどころにして看護師であり続けているのか,それを明らかにすることによって,臨床で働きつづける看護師の支えとなるものをみつけたいという,著者の看護師に対する温かい眼差しが,本書には一貫して流れているように思う.
著者が聴きとり,再構成したエキスパートナースたちの7つのナラティブ(第1章「エキスパートナースの肖像」)には,思わず引き込まれ,あたかも自分がその場にいるような錯覚さえおぼえる.特に,40歳代の結腸がんの女性患者Eさんが亡くなる日の朝,臨床10年目の看護師松田さんが,散歩をしたいというEさんを車椅子の乗せ,二人で風にあたりながら過ごす場面の語りである.病状が悪化し,差し迫るいのちの短さを全身で感じ,もがいているEさんの心の痛み,心の叫びを,松田看護師は果たしてどこまで理解できていただろうかと自問し,それでもそばに居続け,向き合った.その時のEさんの苦しみ,松田看護師の苦しみ,せつなさ,そしてそれらをすべて洗い流すように,すうっと頬を抜けていく朝の冷たい空気感までもが伝わってくるような語りに,私は涙が止まらなかった.
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