特集 「病とともに生きる」を援助する クロニックイルネスの視点から
慢性疾患としてのHIVケア―援助者ができること・できないこと
村上 未知子
1
1東京大学医科学研究所
pp.1086-1090
発行日 2007年12月1日
Published Date 2007/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101163
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「死の病」から慢性疾患へ
●HIV治療法の歴史的変遷
HIV感染症は,90年代後半に登場した新しい世代の抗HIV薬,ならびにそれらを用いた多剤併用療法によって,過去の「ただ死が訪れるのを待つだけの疾患」から,「コントロールすることによって共存が可能な疾患」へと変貌を遂げた.これ以前にHIV陽性の告知を受けた方の話を聞くと,「大勢のスタッフがずらっと並んでいて,ものものしい雰囲気」「説明をする先生の方が慌てていた」など,まさにHIV陽性イコール死の宣告と同様に受け止められていた時代であったことがうかがえる.
強力にウイルス増殖を抑制し,免疫能の回復を図るプロテアーゼ阻害薬を始めとした新世代の抗HIV薬によって,AIDSによる死亡者数およびAIDS関連日和見感染症の発現頻度は著しく減少し,HIV感染者の生命予後は大きく改善された.さらに,登場当初は,飲む回数や錠剤数の多さ,副作用の強さ,さらには高額な薬価などが強調されネガティブなイメージが強かった抗HIV薬だが,近年は1日に1回の服薬で済む抗ウイルス薬の登場や,公費による医療費補助制度の導入など,飲みやすさ,続けやすさという点でも状況は徐々に改良されつつある.こうした変化によって,診療の主体は病棟から外来へシフトし,また,患者から寄せられる相談の内容も,就労や就学,結婚や出産など,疾患を持ちながら新たな人生の再構築を試みるものに変化しつつある.
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