特集 医療現場で「わかりあう」ための原理 構造構成主義の可能性
「同じ」と「違う」―感覚世界を取り戻すために考えるべきこと
養老 孟司
1
1東京大学
pp.692-697
発行日 2007年8月1日
Published Date 2007/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101048
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無思想の発見
「構造構成主義」「わかりあうための思想」というタイトルのシンポジウムの冒頭でいうのも何ですが,私の年代の人間はとにかく「主義」「思想」ということに拒否反応があります.戦前生まれで,なおかつ終戦を挟んで戦後教育を受けた人間は,端的にいえば「だまされた」という実感を根っこのところに持っている.「本土決戦」なんてことを言っていた人間が,同じ口で「平和と民主主義」を語るのをはっきり聞きましたし,その後も,共産主義,自由主義,マルクス主義……あらゆる「主義」に対し,アレルギーを感じてしまうような実体験があるわけです.
では「思想」はどうか.私は最近『無思想の発見』という本を書きました.日本の思想については丸山真男さんという大先輩が文字通り『日本の思想』という本を書かれているのですが,そこには「日本に思想はない」とあります.「それだったら一行でいいじゃないか」と思ったんですが,それ以降,「日本に思想はない」というのはどういうことなんだろう,と考えていたんです.
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