連載 わかるようでわからない精神科のコトバ・11
ドッペルゲンガー
風野 春樹
1
1精神科医師
pp.76-77
発行日 2003年1月1日
Published Date 2003/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100905
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ドッペルゲンガーというのはドイツ語で,英語で言えばdouble,つまり自分そっくりの分身のことです.そして,ドッペルゲンガーを見た者は数日のうちに必ず死ぬ―と,ドイツでは古くから言い伝えられています.いるはずのないもう1人の自分という禁忌に触れた者には,死が訪れるのです.
ドッペルゲンガーは西洋だけの伝説かといえばそういうわけではなく,中国にも「離魂病」の伝承がありますし,日本でも江戸時代の「奥州波奈志」という随筆集に,東北地方の実話として「影の病」という話が載っています.
北勇治という男が,帰宅して自分の部屋の戸を開けると,机に向かっている男の後ろ姿が見えました.着衣から髪の結い方まで自分そっくりなので怪しんで近づくと,相手は細く開いていた障子を抜けてすっと庭先に走り出ました.追いかけて障子を開いたときには,もう姿はありません.家の者にそのことを語ると,母は何も言わずただ眉をひそめただけでした.それから北は病に臥し,その年のうちに亡くなったそうです.実は,北家ではこれまで3代にわたり当主が自分の姿を見て病に倒れ,亡くなっていたのでした.北の母や長く勤める家来は皆これを知っていたのですが,あまりに忌まわしいことのため誰も語らず,当代主人である北はこれを一切知らなかったのです.あとには妻と2歳になる息子だけが残された,といいます.
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