連載 聴こえんゾ!・11
フンギェ~!
山内 しのぶ
pp.605-607
発行日 2003年6月1日
Published Date 2003/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100745
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雨の降る夜更けのことである.遅い夕食をとっていた夫の,箸が止まった.ん?という顔つきになり,視線は,勝手口のドアのほうに向けられている.
「どうしたの?」
「なんでもない.雨の音だよ」
夫は,しばらくののちに,そう答えた.私は,尋ねた.
「うるさいの?」
「今のはね,誰か来たのかと思ったの.ビチャビチャっていったから.よく聴いてみたら,雨の音だったんだよ」
「へえ,雨の音って,ビチャビチャっていうの?」
「ビチャビチャはね,地面に当たってるときの音.屋根に当たってるのは,パンパンって聴こえるよ」
「へーえ,おもしろいね」
「そう,おもしろい? 俺にはうるさいんだけどね」
夫は笑って言い,再び箸を動かし始めた.
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