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はじめに
それは患者の小さなお願いから
当院でのフットケアの始まりは,1998(平成10)年,筆者が看護師長として内科系外来へ配属されて間もない頃のことである.糖尿病栄養内科の診療介助中に,80歳台の女性Tさんから「足の爪,切ってもらえませんか? 膝が曲がらんから,足先に手が届きませんのや」と声をかけられ,硬い爪を切ったことから始まった.その後,Tさんが来院するたび,待ち時間中にTさんの爪を切るようになった.すると,「今日は血糖上がってると思うわ,昨夜,大きな桃を2つも食べてしまったし」と,診察時に主治医から血糖値の上昇を指摘されることを恐れるTさんの胸の内を聞くこともあった.たかが爪切りと思っていたが,Tさんに「助かります」と感謝され,心の交流の場にもなった.
「ほかにもTさんのように足先に手が届かない人や,視力障害で深爪する危険のある人がいるかもしれない」.2000(平成12)年1月,外来棟の新築に伴って看護体制が変わるのを機に,筆者は待合室に手作りのポスターを貼り,患者に呼びかけた.ポスターを目にして,患者は週に1~2名のペースで,フットケア専用に確保した処置室の端のベッドを訪れた.外来の看護師は,爪切りのほか,足の観察,足浴,セルフケア指導などを行なうようになった.患者からは「足浴後,足が軽くなりました」など,肯定的な反応が返ってきた.
苦労をねぎらう患者の言葉
フットケアに取り組んだのは,「患者の困っていることを手助けしたい」という気持ちが先で,最初から「足病変予防に取り組もう!」などと大上段に構えていたわけではない.本来の外来看護業務(案内,検査説明,点滴,処置など)で多忙を極め,支障のない範囲でしか行なえない環境であったからだ.
ただでさえ外来では,診察の順番や待ち時間に対する苦情が毎日絶えず,それらは全部看護師に向けられる.看護師はストレスフルな毎日で,叱責や苦情を聞くことがあっても,感謝されることは少ない.唯一,フットケアを受けた患者だけが「ありがとう」と帰ってくれるので,心が救われた.外来の看護師たちは「どんなに忙しくてもフットケアを続けたい」という気持ちになった.それが継続する力に結びついた.
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