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改めて腹臥位の効果を問う
日常生活動作能力が低下してきた時期のベッド上での生活時間の長期化が,多くの面にわたって生体機能を変調させ廃用症候群を引き起こすことについて,これまでにも報告されてきた1,2).とくに体幹機能の低下により起立時の姿勢反射が遅延(機能失調)し,姿勢保持が困難になることの重大さを見落としてはならない.循環機能が重力耐性能を持つことにより,人は姿勢を保持できる.長期の臥床は循環機能の重力耐性能を衰えさせる.座位や立位を保持するためには,寝返り反射によって平衡感覚を維持するとともに,脳幹部の自律神経中枢と連動してはたらく血管運動反射をはたらかせる必要がある3).動物は重力に抗して立ち上がり空間移動することによってサバイバルするという,生命活動の基本的様式を持っている.臥位姿勢は,生体に備わったさまざまな能力のうち,動物としてもっとも基本的な,外界に反応し対処しようとする力を不用にする.老年者の場合には,これに加えて認知機能の低下も招きやすいことが指摘されている4).
有働は1999年,救急蘇生時に使用される斜面台上の前傾姿勢をヒントに,低ADL状態に陥った脳梗塞後の高齢者などに腹臥位をとらせることによって覚醒レベルを上げることができると報告した5).考えてみれば,腹這い姿勢には仰向けとは異なる身体機能の刺激効果があることはもっともなことである.有働は,低ADL高齢者の意識レベルの低下や痴呆様症状の出現は,高次脳機能より先に脳幹部機能(大脳辺縁系を介して視床下部)の低下を引き起こすと考えられると指摘している.現在,大脳や脳幹部への影響が実際にどのように生じるかの説明は,図1に示すごとく模式図段階である6).そこでわれわれは,ポジションとしての腹臥位と臨床における腹臥位療法が,脳波(EEG)および心臓自律神経機能(心拍変動;HRV)にどのような影響を及ぼすのか検討した7).
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