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“Setting the record straight”事実をまっすぐ捉えよう
見出しに掲げた“Settillg the record straight”は,乳児期の母子愛着関係の重要性を,実際の母親の育児行動の観察から示した著書『親と子のきずなはどうつくられるのか』(BONDING-Buildingthe Foundations of Secure Attachment andIndependence. 邦訳/医学書院刊)で有名なKlaus(新生児科医)が学術誌にのせた論文のタイトルである。Klausはなぜ,このような表題を使ったのだろうか。
KlausはKennelらとともに,イギリスのBowlbyが提唱した母子の愛着理論を,実際の新生児医療の場で確認したことで有名である。Bowlbyは,第2次大戦後の戦争孤児の発達を調査し,乳児は少数の特定の養育者のそばにいようとする本能的な行動をとり,それが満たされないと発達に障害が生じることを見出した。そしてそうした乳児の生得的な行動を「愛着行動」と呼んだ。Bowlbyの理論は,当時新しい学問として急速に発展してきた動物行動学や,実験心理学を理論的な支えとしていた。動物行動学では,Lorenzによる,鳥のひなが孵化して初めて見たものを養育者(母親)とみなすインプリンティング理論が,愛着理論を説明するとされ,実験心理学では,サルの乳児を針金でできた代理母と一緒に飼育したハーローの実験が,愛着行動を説明する絶好のモデルとされた。ハーローの実験では,子ザルは哺乳ビンをくくりつけた代理母より,柔らかな布で覆われた代理母に抱きつく行動がみられたのである。しかし,こうした知見には大きな理論的制限があった。それは,それらが人ではなく動物に見られた行動であったからだ。
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