連載 そのカルテ,大丈夫ですか?誤解を避ける記載術・1【新連載】
―イントロダクション―事実を正しく記載する
神田 知江美
1
1かすが・國塚法律事務所
pp.3
発行日 2014年1月10日
Published Date 2014/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402107293
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◎医療訴訟とカルテ
1999年の横浜市大患者取り違え事件,都立広尾病院消毒薬点滴事件をきっかけに,医療事故報道が連日のようになされ,医療訴訟も増加の一途をたどりました.2001年の東京女子医大事件(人工心肺装置の脱血不良による脳循環不全で術後に患者が死亡)では,人工心肺装置の操作をしていた医師(助手)とカルテを改ざんした医師(講師)が逮捕されました.裁判結果は,模擬人工心肺装置を用いた再現実験で回路内のガスフィルターが水滴で閉塞したことが原因とわかり,誰もこれを予見できなかったとして助手は無罪になりましたが,講師はカルテ改ざん等に対する証拠隠滅罪で懲役1年,執行猶予3年の刑罰,医業停止1年6か月の行政処分,保険医登録取消しの処分を受けました.
もともとは病院が「助手が吸引ポンプの回転数を上げたことが原因」という報告書を作成したことから刑事事件に発展し,マスコミの報道も苛烈を極めたわけですが,病院が安易に報告書を作成していなければ,このようなことにはならなかったはずです.また,講師はカルテの改ざんさえしなければ処分を受けることはありませんでした.しかし,病院や講師がこのような行動を取ってしまったのは,加熱する医療訴訟や医療バッシングのなかで,必要以上に裁判やマスコミなど第三者の反応を恐れたことが原因と考えられます.
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