連載 とらうべ
顔面トラウマ
石井 政之
pp.95
発行日 2000年2月25日
Published Date 2000/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902338
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私の顔の右半分には大きな赤アザがある.単純性血管腫といって皮膚表面に毛細血管が集まっている病気である.治療法として植皮術,レーザー光線治療などがある.しかし,すべての患者のアザを,まるで何もなかったかのように痕跡を残さずに取り去ることはできない.命に別状はない,身体障害も知的障害もないために,医療現場からずっと軽視されてきた症状だ.痛みもかゆみもないので,私自身も病気という意識はほとんどない.では,何も問題がないのだろうか.そんなことはない.顔にアザのある人間は,周囲からの終わりのない蔑視と侮辱にたった一人で立ち向かっているのだ.
私自身,この顔で生きていくことに「慣れる」まで大変なエネルギーを費やした.まず,外出が「冒険」である.通りすがりの女の子から「よくあんな顔で生きていられるわね.私なら自殺しちゃうわ」という侮辱の言葉と視線を投げつけられる.若者が集まる場所,たとえば大学のキャンパスを歩いていると「げ,すごい顔」「気持ちわるーい」という囁きが耳につく.「いい加減にしろ!」と何度心の中で叫んだことだろう.
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