特集 基本・周産期の薬剤
周産期薬を使うということ—薬物療法の大切さと怖さと
井上 裕美
1
1湘南鎌倉総合病院産婦人科
pp.453-457
発行日 1998年6月25日
Published Date 1998/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901945
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はじめに
20世紀の中頃まで,多くの臨床医は妊娠子宮は胎児のために環境を保持し,外からの危険が胎児に影響しないようなバリケードの働きをするという考えを信じていたようだ。
当時子宮を侵し,胎児奇形を生じさせるおそれのあるものは唯一放射線だけだろうというのが常識だった。しかし,ある事件が「胎盤の防御」という神話に疑いを持たせることになった。それは1942年,妊娠初期に風疹に罹った妊婦の子供に認められた,心臓,目および鼻の先天性奇形症候群の,オーストラリアの眼科医グレグ(NM Gregg)による報告だった1,2)。残念なことにこの報告の20年後にサリドマイド事件,30年後にもジエチルスチルベストロール(DES)事件など,医療界の悲惨なスキャンダルが次々と続いた。
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