今月のニュース診断
「クローン人間」議論に欠けていること—産むのは誰か,生まれてくるのは誰か
斎藤 有紀子
1
1明治大学(法哲学・生命倫理)
pp.176-177
発行日 1998年3月25日
Published Date 1998/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901889
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禁止の動き
昨年2月,体細胞を用いたクローン羊ドリーの誕生が世界中の注目をあびた。人間にも応用可能なことから,「独裁者が大量複製される」「遺伝情報は同じでも,一人一人は人間として異なる」「越えてはならない一線だ」「報道がセンセーショナルに過ぎる」など,手放しの賛成こそないものの,ドリーをめぐる言説は揺れ動いた。
クローン人間を禁止する声明も相次いでいる。昨年6月,米デンバーサミット宣言に,クローン人間規制がとり入れられた。ユネスコも,「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」を11月に採択し,クローン人間を禁止した(読売新聞97年11月12日「ユネスコ‘クローン人間’禁止」)。欧州では,1980年代から各国ことに法律が存在していたが,「一国が禁止しても他国で可能では問題解決にならない(シラク仏大統領)」と,今年1月12日,欧州会議40か国中19か国が,合意文書に調印した(読売新聞98年1月15日「欧州のクローン人間禁止協定」)。また,米大統領諮問委員会はヒトクローン研究を法的に禁止する勧告を提出し,米国議会も禁止法を検討。米食品医療薬品局(FDA)は禁止法を待たず,現行法の拡大適用で規制する方針だ。
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