特集 「母性」を心理学からとらえる
未婚女性の母性レディネス
戸田 まり
1
1北海道教育大学(教育心理学)
pp.206-210
発行日 1992年3月25日
Published Date 1992/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900525
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はじめに
一般に心理的な意味での「母性」というと,妊婦あるいは出産して子どものある女性を想定することが多い。しかし,多くの妊婦と接していると,さまざまな理由で妊娠当初からお腹のわが子に対して肯定的な気持ちを持てない女性が存在することがわかる。そうした母親たちは一般に,そうでない母親に比べ,出産後もわが子に対する愛着が高まらない傾向があるといわれている1)。この中には,妊娠を予期しておらず,困った事態に追い込まれたために否定的な気持ちを持った女性もいれば,「なんとなくあまり欲しくなかった」等の不明瞭な理由を挙げる女性もある。
こうした事実からわかるように,妊娠することがすなわち,肯定的な母性感情の形成を促すわけではない。むしろ,それ以前に遡るさまざまな経験や本人の特徴が,心理的「母性」の準備段階になっていると考えられる。これを「母性レディネス」と呼ぶ。この語は心理学の中でもさほど一般的な用語ではないが,ここでは上述したような,親となる以前に遡る特性を意味するものとする。表題には「未婚女性」とあるが,本論では未婚・既婚にかかわらず,子どもを妊娠する以前の女性すべてについて考察してゆく。
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