連載 いのちの詩を読む・6
メルヘンの中の悲しみ(花の木の椅子/山本沖子)
新井 豊美
pp.446
発行日 1988年6月25日
Published Date 1988/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207393
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山本沖子は、詩人三好達治に見出された人である。日本海に向けて開かれた港町、福井県の小浜に生まれ育った沖子と達治の交流は、独学で手さぐりしながら詩を書きはじめていた沖子が、昭和十九年に同県三国町に疎開して来た達治の存在を知り、書きためていた詩稿を送って教えを願ったことに始まっている。一読して詩人はこの見知らぬ娘の秀れた才能を認め、以後、沖子は三好達治の門下で詩を学ぶことになる。
詩集『花の木の椅子』は昭和三十二年に師の序文をもらい、推されて大阪創元社から出版されたが、初版三千部がたちまち売り切れ、戦後間もない荒廃した社会で多くの読者の心を魅了した。当時、それはおどろくべきことだったと云う。なかに次のような詩もある。
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