連載 おとめ山産話
尾島式抜環法
尾島 信夫
1
1聖母女子短大
pp.1000
発行日 1985年11月25日
Published Date 1985/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206766
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先日身内の末期妊婦が拙宅に泊った時,最近,急に体重がふえ,指環が抜けなくなってしまったという。「早く抜いてもらいなさい」というと,どうしても抜けないからこのままにしておくという。「冗談じゃない。じゃ僕が抜いてやろう」といっても,彼女はまさかといった顔つきで本気にしない。身内というものはひとつ間違うと自分の娘は天才音楽家だなどとのぼせ上るが,一般にはかえってホンモノでも信用しないものである。キリストだって大勢の信者にかこまれて困るぐらいだったのに,郷里のナザレに帰ったらあの大工のせがれがと白い眼でみられたとか。私も彼女が身内なので私を信用しにくいのだろうと顔をみつめていってきかせた。「僕は指輪抜きの名人なんだ。慶応の助手のころ,最初1例は困って工作室で切ってもらったが,その後はうまい方法を考えて,いつでも抜くことに成功し,聖母病院でも長年そういう例は全部抜いた。指を出してごらん」「本当よ。やってもらいなさい」と傍からの家内の応援がきいて,指輪女は「それじゃ」といって半信半疑で左手をさし出した。
私はまず椅子を2脚z字状に平行に,しかも向きあうようにおいて,彼女の左手の第4指を私が両手でらくに扱える位置にした。たいがいの例がそうだが,彼女の場合も結婚指輪は第4指の基節,つまり爪先から2番目の関節よりも掌に近い所に食いこんでいる。
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