特別企画 母乳哺育の普遍妥当性
特別寄稿・2
日本の母乳栄養の歴史
澤田 啓司
1
1愛育病院保健指導部
pp.596-604
発行日 1979年9月25日
Published Date 1979/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205597
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1.はじめに
母乳栄養は人間の歴史と共にある。これはことさら日本と外国にわけて考える必要のない自明のことである。実際に,母乳にまつわる古代人の認識や伝説には,日本と外国とに共通したものがいくつかある。文字で記録が残されるようになると,育児の歴史にも日本独自の考え方がいろいろみられるようになるが,母乳栄養のような,いわば人間の原始的な能力がそのままものをいうような事柄になると,昔も今も大して違いがないことがよくわかる。急速に進歩した物質文明の裏面で,人間の哺乳動物としての能力が,文明の進歩とは逆に,しだいに衰えていくように感じられる現代においては,人工栄養が不可能で,母乳以外に頼るもののなかった時代の先人の知恵の中に,われわれに欠けてしまっている何かが見いだされるようにさえ思う。
現在の育児指導や母乳動運の場で要求される,母乳育児のためのノウハウや,複雑でストレスの多い現代生活に即した助言は得られないが,長い人類の進歩の流れの一コマである現代を理解するために,過去の母乳栄養をふり返ってみることは無意味ではない。
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