母と子を看とるなかで
呪縛
横尾 京子
1
1淀川キリスト教病院
pp.535
発行日 1978年8月25日
Published Date 1978/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205423
- 有料閲覧
- 文献概要
その瞬間,呪縛という言葉が咄嗟に浮かんだ。それは,慄然とする場面だった。私たちのさまざまな予測のもとでこの世に現われた児は,浸軟し悪臭すら放っていた。しかも,鼓動の消えた児に,臍帯が生き物の如く絡み付いていたのである。頸部に,そして背中に食込むほどの臍帯のクロス。まるで児は,臍帯に締殺されたと錯覚するほどである。95cmという臍帯は,胎内で何者かに支配されていたのだろうか。それとも,単に,臍帯と児が戯れていたにすぎないことだったのだろうか。私たちは,すっかり児の死にざまにのまれてしまっていた。
分娩が終了し,医師は彼女に話しかけることも忘れ,夫の元に向かった。分娩室は,彼女と私の2人っきり。初声を待つ彼女に,事の成り行きを私が告げなければならないのだが,一瞬のたじろぎを覚えてしまった。臍帯の複雑な絡みが私を動揺させていた。私にしてみれば,児の死にざまが問題であったのだが,彼女には,少なくとも児の生死が問題のはず。呪わしい場面を振り消すために,目を閉じ,頭を小刻みに震わせ,彼女に近づいていった。
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.