私と読書
真に自由な母性の生き方を考える—「生まれなかった子への手紙」を読んで
田代 順子
1
1筑波大学病院
pp.56-57
発行日 1978年1月25日
Published Date 1978/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205328
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この本は「真夜中にわたしはおまえがいることを知った」時から始まり「今,おまえはもういない。ただアルコールのコップが1つあるだけで,その中には男にも女にもなることを望まず,わたしが男にも女にもなるのを助けなかったものが浮かんでいる」時で終わる。職業をもった自由な生き方を目ざす女性が妊娠を知った時から,流産に終わってしまった時までの経過の中での,彼女のモノローグである。このモノローグは引用の文章からでもわかる様に,散文詩のように流れてゆく。しかし,美しくひびくその文章を通して,「疑うことを恐れないひとに,疲れ果てることなく,死ぬほど苦しみながら,なぜかと問うひとに,生むか生まないかという究極の選択をみずからに課すひとに,この本が捧げられる」と冒頭で記されている様に,読む私たちにはげしく生き方を問いかけてくる。
日頃,母子の健康生活の援助という視点からしか問題をとらえていなかった私にとってその視点が押し拡げられる経験をした。著者ファラーチ自身の生き方でもあろうと思わせる文章を引用をしながら,この本を紹介してみたい。
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