特集 食品公害と妊婦の食生活
サカナを食べない市民運動—禍を転じて福となすために
大渡 順二
1
1保健同人
pp.10-11
発行日 1973年9月1日
Published Date 1973/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204569
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私たちは,何を食ったらいいのか。ことに魚のPCB,有機水銀が警告されてから,全国の母親は神経衰弱の状態にある。海洋民族として,魚は,肉にもまして私たちの一番大事な栄養源であったし,また,循環器疾患対策としても,栄養学的には,肉よりも魚肉のほうがいいといって推せんされてきただけにショックは大きい。日本の経済的高度成長が,こんなにまで,私たちの食物環境を汚染してしまったことは「阿呆の後知恵」であり,「馬鹿は死ななきゃ癒らない」のかもしれない。だがせめても,いま,自分の馬鹿に気がついたからには今からでも遅くないから,5年,10年かけても,急いで,このいまわしい食物環境をたちきって正常な軌道にもどす努力を始めねばならぬ。
私は過日,妻と一緒に,講演旅行の足をのばして,青森県の下北半島,十和田,八甲田から,三陸沿岸を南下する旅を試みたが,私たちの五感に直接感知できる公害は,釜石の製鉄所付近と,塩釜港付近で,ここいらは海水の汚濁と大気の異臭のはなはだしいのに驚いたが,青森から三陸沿岸の自然環境は,まことに清冽そのもので,私たちが東京都内で,環境汚染に世紀末的な恐怖を口にし,筆にしてきたのが奇異にさえ感ぜられたことを報告したい。それは近海や沿岸の魚は,それぞれ汚染もされ,縦貫道路は自動車の排気ガスで汚染はされていても,まだまだ,世紀末を云々するのは早いと思った。だからこそ,今にして,「直ぐ立ち上って公害闘争をしなければ」と,覚悟と希望を新たにしたのであった。
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