特集 分娩時の出血
へき地の出血対策
森 一郎
1
,
折田 勝郎
2
1鹿児島大学医学部
2琉球大学保健学部
pp.44-48
発行日 1972年5月1日
Published Date 1972/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204368
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はじめに
わが国の妊産婦死亡率は,周知のように,先進国中最高の群のなかにはいっている。これは,母子保健に対する基本的な考えかたのなかにその主因があると思われるので,日本産科婦人科学会,日本母性保護医協会,日本母性衛生学会をはじめ,諸団体によって正しい理解への啓蒙が繰りかえし行なわれているが,まだまだ目遠しの感が深い。とくに最近では,社会構造の変化は,地方では過疎・へき地を急増させ,このような地域の医療環境は,日一日と悪化し,社会問題化しつつある。なかでも母子保健については,若年層の都会流出に伴う対象減少,ひいてはこの方面の医療関係者の漸減と,悪循環を繰りかえしている。事実本県でも表1のように,最近の助産婦・保健婦の急減はへき地や離島でめだっている。
したがってへき地に残された妊産婦の医療環境はまことにきびしく,福祉を目的とした妊婦健康診査の恩恵すら受けられない所が多い。まして妊娠時や出産時,最も危険な出血は,突発的におこり,止血には熟達な医師と医療品を必要とするので,現状では全く手のうちようがないといってもよいのではないかと思う。だが出血例をよく分析してみると,今日の医学からみて,その全てが予防や軽減が不可能であったとは思えない。すなわち妊娠中からよく管理しておれば,出血は予防できたのではないか,あるいは死にいたるような出血にはならなかったのではないか,と思われる例が少なくない。それで以下,最近の本県の市部や郡部(多くが離島,へき地)の妊産婦死亡のなかに占める出血の傾向についてまずふれ,ついでへき地の出血対策について述べてみる。
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