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滅びゆく職業・助産婦とは……
私たちが生命の誕生にいまでも幾許かの関心を寄せることがあるとしても,それはただ単に両親への"感謝の念"としてすませるのみで,それ以上の意識を持続させずに終わらすことの方が多いのではなかろうか。だが--国勢調査の結果をみるまでもなく,日毎夜毎に新しい生命体が産声をあげているのは事実である。にもかかわらず,一般的な誕生への関心は,性の結合と育てる苦労話をじかに伝える親の範囲を越えてはいないようである。まして,今日この頃の新聞をみるにつけ,三面記事をにぎわしている育児能力を欠いた夫婦の嬰児殺しなどにいたっては,もはやガク然とせざるを得ないものがある。こんな事件が続くなら,母親になる"免許証"を発行しては--といったある心理学者の言葉も,単なる警句ではすまなくなる。さらに痛ましくもむごたらしいことには,真夏の炎天下に乳呑み児を自動車に閉じこめたまま,平気で長時間にわたって夫婦ともども遊び呆けてしまい,ついには死に至らすという凄惨な事件の頻繁な表面化は,いったいなにを意味しているのであろうか。
しかしながら,そうした惨事が起きるたびにも,神秘な生命が母体から分立する過程についての考察はいっさいされないのである。イノチの母を助け,産児のめんどうをみる助産婦の役目について,現代社会はまったくもって認識を欠いているようである。現代の流行であるHow to sex論や育児教育法についてのはなやかな論義に比し,その間にどうしても避けては通れない出産の現揚に向けられる注意は,あまりにも遺棄されている。本来,助産婦は多くの専門的技術訓練を必要とし,"生命にかかおる仕事"だけに,もっともっと注目されてよいハズである。
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