分娩体験記
一言説明がほしかった
三田 康子
pp.34-35
発行日 1968年1月1日
Published Date 1968/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203506
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□私も母親になるんだ□
彼も私も,結婚した年齢はそう若くはなかったので,早く子供をほしいと考えていた.それでも,そんなに早くつわりになるとは知らず,のんきに新婚生活を楽しんでいた.ある夕方,夕飯を済ませ,彼と本を買いに町に出た.その帰り,足がだるくて,なんだか目まいがあるような気がした.変だ変だと思いながら2,3日すると,時々空腹になるとむかつきがくるようになった.それで,もしやと思い,病院に行った.まちがいなく,おめでたですと言われた.彼も心配して,さいわい,会社が家のすぐそばだったので,早く帰って結果を待ってくれていた.彼の何とも言えないうれしそうな顔を見た時,はじめて,私にも,母になるのだという恐れや喜こびが湧いてきた.
それからの10カ月間,彼の買って来てくれる本をむさぼり読んだり,母や姉に経験を聞いたり,6,7カ月に入ると,うきうきしながらおしめや肌着を作り,この10カ月間ほど,いろいろな意味で,有意義に過せたことは,今までになかったと思う.つわりも大してひどくはなく,とにかく空腹にしないように気をつけていれば,あとは普段とあまり変りはなかった.5カ月で帯をした時,6カ月で胎動を感じた時,7カ月でやっと児心音が聞こえますよ,と,いわれた時,今考えても何ともいえぬうれしさだった.やせっぽちの私も,10キロも太り,毎朝起きると,後何日かと数えたり,男か女かはっきりしろなどと,彼にいわれたり,そうこうするうちに,とうとう予定日がきてしまった.
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