特集 精神身体医学(産科)
精神身体医学総論
九嶋 勝司
1
1東北大学医学部
pp.10-12
発行日 1966年12月1日
Published Date 1966/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203304
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Ⅰ.医学の生立ち
病人を治すことがまだ学問の形態をとらない昔においては医療は宗教と同居しており,もっぱら精神的に病人を治そうとしていた.ところが,錬金術から化学が生まれ,物質を究めることが科学であるという考えが支配的になるにおよんで,霊とか心とかいう精神的な面は非科学なものとして世間からしだいに疎んぜられるようになっていった.科学の一つとして進歩してきた医学も肉体的変化のみを追究して,心の面に触れることはむしろタブーとされてきた.しかし,臨床医学が立ちむかっているのは病める人間であって,決して胃癌とか肺結核とかいう病気そのものばかりではないことは心ある医師は皆感じたのである.フロイドのように病人における感情(心)の面を強く押し出した学者もあったが,それが医学全般を動かすにはいたらなった.その主張がセックスと結びついた感情を問題にしたために,かえって世間から白眼視される結果となった.ところが,第二次世界大戦のとき米国兵に多数のノイローゼ患者ができ,これが作戦上にも影響しかねない状況となるにおよんで,医学における心理面というものが重視されるようになり,精神身体医学なるものがクローズアップされるにいたったわけである.したがって精神身体医学は新しく生まれたものではなく,昔からあったが医学の生立ちから,ながらく日蔭の身におかれていたのだという方がよいと思う.
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