巻頭随想
いのちをまもる
田中 寿美子
pp.9
発行日 1966年11月1日
Published Date 1966/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203285
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一体,人間はこどもを生みたいほど産むのが仕合わせなのか,それとも数を制限する方がしあわせなのか,と考えることがある.もちろんこれは生活できる経済力があるかないかという問題を度外視して議論できるものではないので,このごろはもっぱら生活水準を考えて,何人のこどもをもてばふつうに食べさせられ,教育をさずけることができるかを考えて,計画的にこどもを生むことこそ人間の道であるというのが常識である.
私もそう主張してきた.合理主義ではもっとも徹底している北欧の国スエーデンの,世界的に有名な社会学者であるアルヴァ・ミルダル女史なども,日本にきたとき,人はある程度教養と経験を積んだ年齢である25歳以後に結婚し,3年間隔に3人の子どもを生むのが理想的だといった.そうすれば,スエーデンのように生活水準も高く,社会保障制度のゆきとどいた国では,人口の質を高く保った上に,人口の減少をくいとめる程度にはゆけるはずなのである.だから家族計画をよく指導して,この理想の程度に各家庭の女たちが妊娠し,出産するように心がけているのだろう.それでも人工中絶はあるし,非合法の性関係で妊娠する女性のためには「未婚の母の家」の制度があってこどもを生むために女性が受ける苦痛を緩和する方法を国や社会がいろいろ工夫している.
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