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海の魚と寄生虫—魚のなかの虫は人に感染するか—その1
吉村 裕之
1
1千葉大学・寄生虫学
pp.30-31
発行日 1966年4月1日
Published Date 1966/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203165
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- 文献概要
□はじめに
川や湖沼に棲息する魚,すなわち淡水産の魚類にはいろいろな寄生虫が寄生しており,これが人の体に入ると重大な病害をあらわすものがあることはすでに読者はご存知のことと思う.これらの中でことに肝臓ジストマ(肝吸虫とよぶ)がよく知られており,それはコイやフナの"あらい"とか"さしみ"によって感染することは説明を要しまい.その他にアユの"白焼"や"さしみ"から感染する横川吸虫という腸に寄生する小さなジストマや,ボラなどから同様にうつる有害異型吸虫(やはり人の小腸にくいついている)などがよく知られている.そのほかジストマ以外のものとして,ライギヨ(雷魚)の生食によって人の体内に侵入するはなはだ奇怪な線虫である有棘顎口虫があり,これが長年にわたって人の体内を幼虫のままでうろつきまわり,時に眼の中や脳の中にまよいこんで思わぬ重大な病害をあらわすこともある.あるいはマスなどに時として寄生するサナダ虫の幼虫が人にとりこまれて広節裂頭条虫と呼ぶ長さ10m以上の文字通りサナダ紐のごとき奇態な虫にとりつかれることもある.
このような淡水産の魚を介して,人に感染する寄生虫病はその土地の人の食習慣と密接な関係があり,したがって肝臓ジストマのように多分に地方病的性格をもっていて各地にその流行地がある.もっとも最近ではいわゆる食道楽として特殊な魚の生食を嗜む人がふえつつある.
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