巻頭随想
「母—子」出発点の管理
岡 宏子
1
1聖心女子大学・心理学
pp.9
発行日 1964年4月1日
Published Date 1964/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202726
- 有料閲覧
- 文献概要
○夫人は,先日,二度目の出産を無事すませた教え子のひとりであるが,先日,研究室へきた時,面白い話をしていった.「先生,私,考えてしまいました」「どうしたの?」「新生児って,眠ってばかりいると思ったら,随分よく泣くんですね」「あら,あなた二度目じゃないの,今ごろ新発見みたいに……」「ところが先生,新発見ばかりなんです」という○夫人の話は,——最初の子どもの時はある大病院でお産をした.もちろん,設備万端ととのっていて,生まれた子どもはすぐ新生児室へ,そこで医師,看護婦の手で万全の管理がなされ,授乳の時だけ母親の室につれてこられた.だから,二週間の入院中,母親は,赤ん坊の一日の生活ぶり,その目ざめと眠りの交替状況や行動について,ややつんぼ桟敷におかれていたようなもので,帰宅後はじめて24時間の行動に接したわけである.そこでこの若い母親を戸惑いさせたことは,赤ん坊がちょっとした行動の変化をみせたり,意味もなく泣くように見えたりした時,一体これはどういうことかを判断する手がかりが,育児書にかかれた模範的赤ん坊の行状以外にはないことであった.それで,それとはちがうように見える行動の一つ一つが,病院から自宅へという生活の変化からくるのか,自然の赤ん坊の調節的作用なのか,この子が特殊なのか,何か処置を必要とする問題があるのか,見当がつかずに不安になったし,自分の態度に安定性がもてずに困ったというのである.
Copyright © 1964, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.