特集 綜合保健活動成立の条件—第22回日本公衆衛生学会総会シンポジウム
指定討論
綜合保健事業への出発点
小川 喜一
1
1大阪市立大学経済学部
pp.589-591
発行日 1965年10月15日
Published Date 1965/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203131
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I.
わが国では,目下医療保険制度を含めて,国民のための保健事業が全くの混迷状態に陥っており,関係者のすべて--医業側,支払い者側,および被保険者側--に不満が堆積して,ゆきづまりの観を呈している。人は,このような現実から一応はなれて,わが国の将来の綜合保健事業のあり方についてさまざまに理想的な構想をえがくことも可能であるし,あながちそれが無意味とはいい切れないであろう。しかし,それらの構想が現実の諸条件とのつながりを見失うにいたるとき,「綜合医療を論じるのは無意義ではないか」,「もっと即効的な小乗策はないか」との主張が現われることも,まことに当然であるといわなければならない。このような意味から,いま綜合保健活動成立の条件を「現実的な」それと解するならば,その場合,まず指摘されねばならないのは,余りにも自明であるがゆえに,あるいは他の何らかの配慮のゆえに,無視されがちな条件である。それは,五島貞次氏によって「医療の最高平等性」という用語をもって直言されるごとく,「所得や所得の顕在的な表象である住宅,服装,文化的施設,娯楽手段,教育や教養の程度,余暇などに関しては,人びとは最低の保障という考え方を容認できる。……しかし,医療に関しては要望は異なってくる。医療の内容については,その時点の医学と薬学の最高のものを,すべての患者に与えたいというのは,医療関係者と国民とに共通な願いといってもよいであろう。
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