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妊娠中絶をめぐって〔3〕—手術と障害
大島 正雄
1
1母性科学研究所
pp.49-52
発行日 1963年8月1日
Published Date 1963/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202597
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1.妊娠中絶につきまとう不安
——生めよ,ふやせよ!——
戦前は声を大にして叫ばれ,双生児や三つ児を生んだ母親が表彰されたり,賞が与えられたりしました.双生児や三つ児は生もうと思っても生めるものではなく,いわば偶然に生まれたものをほめるというのは何といっても変な感じがしたものです.ほんとうにふえることが望ましいのなら,双生児や三つ児をりっぱに,健康に育てあげた努力に対してこそ行なわれるべきではなかったかと思います.しいて意味ありと解釈すれば,双生児や三つ児をば,畜生腹と称していみきらう風潮を排除するためだったのかもわかりません.それならそれで,もっと指導の方法がありそうなものですが,当時は何といっても「生めよ,ふやせよ」の魔術にかかったみたいで,自分の足もとを見失っていたようです.そして正直な人たちは,あるいはたくさんのこどもを誇り,あるいは生活の苦しさを慰めたり,あきらめたりしたものでした.
ところが,敗戦となると様子は全く変わり,海外に広がっていた日本人はことごとく,引き揚げとなり,その土地も徳川時代そのままの四つの島に閉じ込められることになりました.
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