今月の言葉
声ある声をきく
辻 達彦
1
1群馬大学
pp.9
発行日 1960年12月1日
Published Date 1960/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202032
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私は毎年夏になると群馬県下の養護教諭のあつまる講習にひつぱりだされる.そのときに教員の妊娠,出産,育児についてリポートをあつめたことがある.それをよむとその具体的実状を窺うことができたし,また母子衛生のこれまでの行き方に様々な不満ものべられている.例えば妊婦検診が少なすぎるとか,社会保険で出産がかかれるようにしてほしいという風なことがあげられている.この声が何を代表するかというとはつきりした根拠はない.しかし養護教諭は専門的教養を具えている点と,母としての体験をもつひとびとが多いことで一般母性の恰好なる代弁者と考えられる.
教員の訴えとしては産みたくても産めないというなげきがきかれる.20代,30代の女の先生で子供ひとりきりというのが多いようである.従つて中絶も予想以上に多いと推定される.大部分が共稼ぎであるし,教員の勤務が他の労働条件と異質のものを多く含むことで妊娠,出産,育児に不安を伴うことは想像できる.産前,産後計12週の産休をとれることは考えようによつては農村の妊婦よりは余程めぐまれている.とはいえ,産みたくても産めないような隘路があるとすればそれを打開することは必要である.教員の産児数がすくない場合,いわゆる人口資質の逆淘汰に通ずることはいうまでもない.
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