甃のうへ・第11回
『声』
熊丸 めぐみ
1
1群馬県立小児医療センターリハビリテーション課
pp.150
発行日 2014年2月15日
Published Date 2014/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551106557
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子供は高い声が好き.特に新生児から乳児においては「聴覚選好」により,男性の低い声よりも女性の高い声のほうが,早口よりもゆっくりで抑揚のある喋り方のほうが好きらしい.小児病院に異動して間もなくそんな話を聞いた.周りをみると,たしかに高くて優しい声を出すスタッフに対しては,子供の反応もちょっと違う.もともと低い声ではなかったが,それを聞いてから,さらに高い声で喋るようになった.女性はよく電話口で声が高くなるが,それ以上に(きっと1オクターブは)高くなっている.
30代半ばで成人病院から小児病院に異動して,1年半になる.この歳まで「声」が理学療法の武器になるとは思っていなかった.もちろん,成人病院時代も年配者にとって聞きやすい声のトーンや喋るスピードには留意していたが,正直,そこまで重要視していなかったと思う.もともと扁桃腺炎にかかりやすく喉を痛めやすかったが,ガラガラ声になると「カラオケの歌いすぎ」とか「お酒の飲みすぎ」といった冗談にかえて患者さんと笑いあっていたくらいだ.しかし,当たり前だが,子供たちにこの冗談は通じない.昨日までニコニコしていた子供が,ガラガラ声には誰ひとりとして振り向いてはくれないのだ.子供の興味もやる気も引き出すことができない,つまりは理学療法として成立しないことを意味する.ちょっとした敗北感をおぼえた瞬間だった.
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