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文章今昔ばなし
遠
pp.14-15
発行日 1960年11月1日
Published Date 1960/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202015
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ものを書くのはむずかしいというのは,筆をもつ人もたぬ人に共通した慨嘆.日ごろ書きものを頼まれつけている先生方にすら,この種の被害感は相当なもの.と同時に,文章のむずかしさという,読む側からの問題も大変なものである.いちばん難かしいのは,読んで判つてもらえる文章を書く事とは,わかりきつた話だが,講座など執筆する先生方には,こんな注文も頭痛をもよおす次第で,そんな事を頼むだけで,ボクにや書けないよと断られてしまう始末.せめて,「である」は「です」くらいにはしてほしい所である.
それはそれとして,いつたい今どきの文章と,昔の文章(といつても明治以降での話)とどつちが難かしかろうという,文章今昔ばなしは,編集会議などでは決つて出る話題.編集子は若々しい戦後派青年なんだが,木下正一先生,竹内繁喜先生はじめ,文章の大家を自他共に許す本社長谷川編集長など,口を揃えて,懐古趣味のオールドフアン.今どきの達意を旨としながら,形を踏みはずした八方やぶれの文章は苦手で,昔風の,いうなれば「柳はみどり花は紅」式の一あつて二なき文章の方が書き易いし読み易いという訳で,漢文調も擬古文も美文もひつくるめて「明治は近くありにけり」,この調子の文章が誌面をにぎわす日はまだまだ当分はつづく事かと昭和生れはガッカリ.
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