社会の動向
まだ中絶が多い
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.54-55
発行日 1959年11月1日
Published Date 1959/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201798
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出生をへらすためには,いろいろの手段がある.まず受胎調節から始まつて,人工妊娠中絶や不妊手術の方法がある.不妊手術は,医学的にいろいろの影響があるとかないとか言われ,一頃にくらべると,かなり普及率は高くなつたが,まだ学問的にはその結論がはつきり出たとは言えない.そして,医学的な面ばかりでなく,社会的,道徳的に別の面からの検討すべき問題が附随して出てくるので,そのようなすべてを綜合した結論めいたものがまだ出ない段階にある.したがって,これをすすめる者はかなり確信をもつてすすめるとしても,それを受け入れる側が,それを信じて受け入れる段階にはまだ達していないところに問題がある.
人工妊娠中絶は出生に対し,そのままのはたらきでそれを阻止する役割を果たす.したがつて,出生率の減少には大きな比重を占めることになる.これに対して受胎調節の方は出生をへらすためには,多くの時間と多くの回数の努力がいることになる.人工妊娠中絶のように1対1の関係ではゆかない.長い期間の観察と阻止の実行が伴うのである.昭和25年頃から日本人の出生の減少はめだつている現象であるが,その原因の大きな部分は人工妊娠中絶によると言われている.
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