随筆
猫の話
奥村 栄四郎
pp.40
発行日 1958年3月1日
Published Date 1958/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201442
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ゴロが又4匹生んだ.いつものように台所の隅のみかん箱に入つてゴロゴロ云つている.いつもならもう1カ月にもなろうという仔猫の処分問題が家の中を薄くおおつて,ヒヨツトした話の合間に親仔が生き別れという事になるのだが,幸い今度の家は商店ではないので未だに大小5匹のヤツが狭い所で楽しい吾が家をきめ込んでいる.夕方の忙しい時もガタガタ云う食事の物音を全く知らぬげに仔猫をなめてやつている.
吾が家にはもう1匹,美猫ミー公が居る.こいつももう4年程になるが一向老けない,それ所か未だに丸で稚気に溢れていて,毛並も美しい.ゴロはもう7,8回子を産んだろうか.何しろ二年程前によそへ上げた仔猫がもう孫を持つている.今もこうして4匹の乳飲み子を抱えて食わしているんだから,まず頑健にして多産と云えるだろう.恋人の数からすればどつちもどつちだが,どう云う訳か,ミー公は産みつ気が少なく,1年程前一度可愛いい三毛を生んでパツたり止つてしまつた.その仔もすぐ死んでしまつたので家の者はひそかにこの猫が産んでくれれば,さぞかし愛らしい仔猫が見られるだろうと思つている.家中の者が皆,特に猫好きだと云うのではないし,又全くねずみ取りの職能を放棄しているという理由で,この2匹は家を追われる可能性は十分にあるのだが,話は出ても未だ実行されない所をみると,家の連中も自然にこの老猫達に一目おいて物を考える習慣がついたのかも知れない.
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