巻頭随想
猫馬鹿
後藤 紀子
pp.9
発行日 1968年9月1日
Published Date 1968/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203614
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シャム猫の牝は,その発情期に独特の激しさで,声をかぎりと,真正直に雄を呼び続けて泣く.それは不成就の恋を嘆き,血を吐いて死に至るまでに鳴き続けるというほととぎすの声にも似て,激しい中にも哀感があって,聞く人の心をとらえずにはおかない.
私の愛猫パンタもその例にもれず,小さな体を全身電流を走らせたようにビリビリとふるわせながらその時期をすごす.そうしたあつい血潮のほとばしりに,私は我身をよくおきかえて考えてしまうのが常だが,こんなにまで激しい身内の自然を,私たちはいつの頃から忘れてしまったのだろうか.痛い時に痛いともいわず,いやなこともいやだといえずうれしい時のあの感激さえもいつか薄絹にくるんでしまって…….
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